インタビュー
2021/5/28

金春流シテ方中村 昌弘さん

我が子と立つ悲劇の舞台で見る夢は ―第五回中村昌弘の会「角田川」―

研鑽の舞台「中村昌弘の会」

中村自分の会を立ち上げたのは36歳の時。それまで若手中心の「円満井会」だけだったのが、「金春会」でも舞わせてもらえるようになって忙しくはなってきましたが、同時にチケットが売れる役者にならないといけない。「道成寺」の披きが決まったいたので、その半年前に自身の会をやって勢いをつけたいという気持ちもありました。後援会ができたのもその頃です。稽古場として借りていた地域センターで「ホールを使用する団体は運営委員会に入らなければならない」という通知が来て、バカ正直に行ったら「本当に来た!」って向こうが驚いていて(笑)。騙されたと思いましたね。でも高齢の方々に混じって力仕事を引き受けているうちに、「応援してやろう」ってことになって後援会ができたんです。

五回目の今回、「角田川」を選んだのは…

中村今回は子方の適齢期ということもありました。一年延びてしまいましたが、次男の優人が今年で小学二年生。「生年12歳」の梅若丸とはいえ、あまり大きくならないうちが良いだろうと。そして「角田川」というのは、能楽師にとってひとつの憧れでもあると思います。僕も駆け出しの頃、高橋忍先生の「角田川」を地裏で拝見してボロボロ泣いたのを憶えています。いつかやりたいと思っていた曲。次男が適齢期の今、先生にもお許しをいただいて舞わせていただきます。

最後に「角田川」の見どころを教えてください。

中村「角田川」は悲しい物語ではありますが、「どうやって泣かせるか」というのは違うと思っています。最近、金春流でも「角田川」は上演が多いのですが、3月に本田光洋先生の「角田川」で本田芳樹さんを筆頭に若手で地謡を勤めさせていただいたのは、とても勉強になりました。光洋先生からは「祝言のように明るく謡え」と言われていました。先生が仰るには「これでこの旅が終わったということ。ジメジメではなくカラっと謡ってほしい」と。昨年、「角田川(隅田川)」をテーマにした流儀横断講座で、大島輝久さん(シテ方喜多流)も「面の中ではアッカンベーをするくらいの気持ちでやれと先輩から教わった」と話していましたね。

「離見の見」もそうですが、感情を込めやすい曲ほど一歩離れて自分を見なければならないという教えを、先人たちがいろんな言葉で遺してくれているのだと思います。僕が感動した「角田川」を高橋忍先生が娘さんと舞われたのは30代ですが、「すごく悲しい気持ちになった」と後に仰っていました。僕もきっとそうなると思いますが、いかに冷静さを保てるか…。かつて美空ひばりさんが「『悲しい酒』のような悲しい曲ほど、笑って歌うの」と言っていましたが、「角田川」こそそういう曲だと思います。その境地に達するには、嫌になるほど稽古して「やれやれ」って心境で舞台に立つくらいでないといけないのかもしれません。あとは、次男が塚の中で寝ないことを祈るだけです(笑)。

(終)

【第五回中村昌弘の会】

公演日:2021年7月31日(土)
会場:国立能楽堂
時間:13:30開演(12:45開場)

中村さんが「自分を引き締めるため」と他流儀の能楽師を招いて行う、恒例の立合仕舞も「中村昌弘の会」の見どころ。今回は、流儀横断講座の同朋でもある宝生流、髙橋憲正さんが「玉之段」を勤める。

古典らしからぬファンタジックなイラストが印象的な公演チラシ。中村さんが大学時代に塾講師のアルバイトをしていた時の教え子という三村晴子さんが、第一回からすべてのイラストを手掛けている。
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