インタビュー
2022/7/27

大蔵流狂言方山本則重さん 山本則秀さん

人が認めあい支えあう狂言の理想へ
 ― 則重則秀の会011/012

「則重則秀の会」に込められた思い

則重「則重則秀の会」を始めたのが2017年3月、私がちょうど40歳の時です。高校、大学を卒業して仕事に就くとなかなか友達同士会う機会がなくなりますよね。そしてまた40歳近くになると仕事も少し落ち着いてきて、久しぶりに会った時に「じゃあ一度、舞台を観に行くよ」という話になることが多かったんです。そんな時に、どうせ観に来てもらうなら「兄弟でやりたいな」という思いもあって会を立ち上げました。裾野を広げるという意味でも、同じ世代の働く人が仕事帰りに気軽に能楽堂に足を運べるような会にしたいと思って。

子ども向けの公演を始めたのは?

則重2018年9月、4回目から。自分でも子育てをしてみて、なかなか子どもを連れていけるところが少ないと感じました。出掛けた先でも、ベビーカーを押しながらエレベーターを探したり、子どもが静かにしていられるか心配ばかりしていなきゃいけない。こんなに世の中のお母さんたちは苦労しているのかと気づいたんです。だったら「子どもたちが、どんなに騒いでも泣いても大丈夫です」という会をやろうじゃないかと。翌年には「0歳から楽しめる狂言の会」をやって、子ども向けの会は今回が3回目になります。

則秀今まではワークショップをやっていたんですが、今回は同世代の子どもの狂言を見てもらおうという趣旨で。私の長男・則匡が狂言『伊呂波』、則重の長男・則光が小舞『雪山』を勤めます。私たち二人の狂言は『神鳴』を。

則重最初の頃は、子どもたちが来ても楽しめる曲を考えて選曲していたんですが、子どもたちはいろんなことを感じ取ってくれるんだということが分かってきて。こちらが子ども向きに合わせて与えようとしなくてもいいんだなと。

(012公演)今回のテーマは「表と裏」

則重今回のテーマは実は後付けで。『千切木』をやろうというのが先に決まりました。シテの太郎は連歌が得意なんですが、仲間から煙たがられて呼ばれなくなる。それでも太郎は出掛けていきます。散々に打ちのめされて帰ってくるのですが、今度は奥さんが「仕返ししよう」と言い出す。本当は気の弱い太郎も奥さんの前では強気な姿を見せたいので、奥さんに励まされて仕返しにいく…。「本音と建前」とも言えますね。

則秀『萩大名』は、実は風流の心得がない大名が、太郎冠者に陰で教えてもらいながら良い格好をしようとする。それが「表と裏」ってことだよね?

則重後付けのテーマなのでちょっと薄いんです(笑)。だけど両方に通じるのは、いろんな人がいて支えあって生きているってことだと思うんです。これは狂言全体に言えることですが、「世間にはいろんな人がいて、互いに認めあうことで争い事をなくしていこうよ」というのが、狂言の理想じゃないかなと思います。

仲の良い則重規秀さんの写真

『千切木』を選んだのは?

則秀そこが今回もうひとつの隠されたテーマなのですが、山本家のテーマであり、能楽界全体のテーマでもあります。「家」の人間が少なくなったこともあって、『千切木』のような人数物(大勢の演者が出る曲)をやるのが難しくなってきているんです。伯父の時代、祖父が亡くなって三兄弟だけになって、人数物をやるときは弟子の力を借りるしかなかったと聞いています。私たちの世代では、泰太郎、則孝と凜太郎を合わせて5人ですが、『千切木』という曲は成立しません。そこで今回は、私たちのお弟子さんたち4人に出てもらうことにしました。みな20代から30代で、普段は他の仕事をしながら長くお稽古をしてくれていますが、なかなか本番の舞台に立つ機会がありません。道成寺の鐘だって、私たちが運べなくなったら誰が運ぶんだ?と考えたりします。先々のために彼らが舞台に立つ機会を作っていこうということで『首引』か『千切木』が候補になりました。伯父に相談したら「『首引』は(面を掛けて)顔が見えないじゃないか」と一言(笑)。それで『千切木』に決まったんです。

『萩大名』と『千切木』。シテはどちらがやるか、どうやって決めたのですか?

則秀最初は『首引』を考えていたので、私が『萩大名』(のシテ)をやるつもりだったんです。『首引』のシテは大変なので(笑)。でも『千切木』に決まったら、「おまえが『千切木』をやれって兄が言い出して。二人でシテ・アドをやる時にどっちがどっちというのは基本的にはないのですが、なんとなくキャラ的に、というのはあるかもしれないですね。

則重この会を始めた目的のひとつに、兄弟二人でシテ・アドの狂言をやろうということがありました。意外と同じ舞台に立つことは少ないんですよ。どちらかが狂言ならもう一方は間狂言だったり、同じ舞台でもアド・アドだったりして。今回の『萩大名』は父にも出てもらいます。父も良い歳になりましたので、三人で舞台に立てるということにも特別な思いがありますね。そんなところも観ていただけたらと思っています。

愛車に乗るお二人

(終)

【則重則秀の会011/012】

則重則秀の会 011 親子で楽しめる狂言会

則重則秀の会 012 表と裏

公演日:2022年 9月4日(日)
会場:セルリアンタワー能楽堂

時間:【011】11:00(開場10:30)

   【012】14:00(開場13:30)

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ひとことインタビュー

兄弟でやっていて、良いこと悪いことはありますか?

良いことは、『附子』の太郎冠者、次郎冠者のようにシンクロする役の時は、息がぴったり合うことですね。逆に『昆布売』の大名と昆布売みたいに対比的な立場の役は、違いを出すのに苦労しますね。声も似ていますから、お客様には同じ謡に聞こえてしまうのではないかと心配になります。

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